行先番とWebグループウエア
2000年代に入って、在籍情報、電話の伝言、企業内の告知用掲示板のような情報共有には、Webグループウエアが普及してきました。さらに、最近は、WebグループウエアによるASPサービスを提供するホスティング・サービス会社が増えています。まさにWebグループウエア全盛の時代といえます。
しかし、Webグループウエアは本当に、スケジュールなどの企業内の日常情報共有という面で最適なツールでしょうか?私は、日頃からこれに関しては大きな疑問をもっています。
当社ではWebグループウエアとは異なるアプローチの『行先番』という簡易グループウエアを開発・販売しています。一種のクライアント・サーバ型グループウエアですが、こういうアプローチの製品はだんだん少なくなっているように感じます。しかし、今後、もっと見直されるべきではないかと考えています。以下に、行先番とWebグループウエアとの違いを整理してみたいと思います。
Webグループウエアの特徴
Webグループウエアとは次のようなものです。
Webグループウエアの長所
- Webサーバ上にすべてのプログラムとデータが置かれます。インストールする際は、グループウエアの管理者がサーバ上にWebグループウエアをインストールするだけで済みます。
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エンドユーザが使用するクライアント・パソコンにはWebブラウザのみあればよく、システム管理者にとってはクライアント・パソコンの管理が楽になります。
- エンドユーザが操作するのは、インターネット・エクスプローラなどのWebブラウザです。Webブラウザは無料で入手できますし、現在のパソコンにはほとんどすべてに備わっていて、ユーザは使い慣れています。このため、少なくともブラウザの操作を教えたり、学ぶ時間は節約されます。
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ロータス・ノーツや、MicrosoftExchangeなどのクライアント−サーバ型のグループウエアよりも価格が安く設定されていて、導入しやすいものとなっています。
Webグループウエアの欠点
- Webグループウエアのユーザ・インターフェイスは、HTMLとjavascriptなどのスクリプトで記述します。Windows標準のユーザ・インターフェイス設計技術を使うことができません。このために、エンドユーザにとって、使いやすい画面を作成したり、操作性を良くするのが難しくなります。例えば、次のようなことです。
- ブラウザのHTML表示画面内にデータを操作するためのメニューを置きます。このため、操作メニューと内容表示部分が一体になってしまい、表示に使える領域の制限が大きくなります。ブラウザのスクロール・バーでスクロールしないと必要な情報の閲覧ができなくなりがちで、ユーザにとっては情報を一覧して把握しずらくなります。
- Windowsのアプリケーションで一般的に使われるツールバー上のショートカットボタンを使えないので操作性が悪くなります。
- 一画面内のWindow領域の大きさをマウスで対話的に変更できません。ユーザが見たい箇所を必要に応じて広げて見ることができません。
- データの入力はHTMLのFormを使って行うため、マウスやキーボードで情報を入力する際の生産性が低くなります。
- Webグループウエアの画面はHTMLで記述されていることから、画面を切り替えるごとにHTMLを整形・表示するための処理時間のオーバーヘッドが掛かります。このため専用アプリケーションと比べてどうしても画面を切り替えた時の表示の速度が遅くなります。
- すべての処理の負荷がWebサーバに集中してしまいます。Webグループウエアのユーザ数制限が無制限であったとしても、快適に使えるユーザ数には実質的な制限が出てしまいます。
Webグループウエアを使うASPサービス
Webグループエアの普及にともなって、ASPサービスで提供しようというビジネスモデルが出現してきました。企業と契約して月額数千円から1万円程度の料金をとって、Webグループエアを提供するものです。
次のようなサービスがあります。
ASPサービスの長所
- 企業ユーザにとっては、自社内でWebサーバ管理を管理する必要がなくなり、専門知識をもったシステム管理者が不要となります。
ASPサービスの欠点
- Webグループウエアのもつ技術的な欠点は、そのままASPサービスでも欠点となります。
- パソコンの価格が下がり、Webグループウエアの価格も下がる傾向の中で、ASPサービスの料金は、まだ少し高いように思います。月額料金性の場合、ずっと継続して料金を払わねばなりませんので、長期的に使用するとかなりの出費になる可能性があります。
行先番の特徴
行先番は、クライアント−サーバ型のグループエアです。但し、ロータス・ノーツや、MicrosoftExchangeのように規模が大きくてカスタマイズを行って導入するものではなく、頻繁に使用する機能だけに絞って、専用のアプリケーションとして実現したものです。
行先番の長所
- 専用のWindowsアプリケーションで、アプリケーションの操作メニュー、ツールバーを備えていますので画面を切り替えたり、情報を入力する際の操作性が良くなります。
- ユーザが情報を表示するクライアント画面はクライアントのパソコンの上で実行されるアプリケーションの画面ですので、ユーザの画面切り替えなどに対する応答性が優れています。
- 情報を表示する画面は必要に応じて最適に設計されています。また画面の中の各Windowをマウスで簡単に広げることができますので、表示されている情報の視認性、一覧性に優れます。
- 情報の入力の際の画面はFormではなく、独自に設計したダイヤログや編集画面を使いますので、データ入力時の生産性が高くなります。
- サーバは分散させることができますので、ひとつのサーバへの負荷集中を避けることができます。
行先番の欠点
- Webグループウエアと違って、各ユーザ毎に行先番クライアントをインストールする必要があります。このため、管理者は最初にクライアントを各ユーザのPCにインストールして回ることが必要です。
グループウエアと生産性問題
上の述べたようにWebグループウエアと行先番の違いは、行先番の方がアプリケーション操作性、入力時の操作性、情報閲覧性が優れるということにあります。
この相違のため、例えば、次のような生産性の差が現れます。
- 自分自身の在席をセットするとき、行先番であればツールバーのボタン一押しでセットでき、1秒もかかりませんが、Webグループウエアでは最低でも数秒かかることになります。
- Webグループウエアで、個人のスケジュールを書き込むと1件30秒以上かかりました。これに対し、同一のスケジュールを行先番で書き込むと、最大でも25秒でできました。
データの書き込み1件では数秒の違いにしかなりません。しかし、グループウエアは大勢のメンバーが毎日使用するものです。スケジュール記入、行先・在席情報、電話メモのように日常に使用する機能の操作性は、仕事の生産性にかなり大きな影響があるでしょう。それは次のような試算をしてみると良く分かります。
例えば、1回のデータ書き込み、閲覧に2秒の差があるとします。そして、1人が1日20回データ書き込みまたは閲覧を行い、それを50人で、年間230日使うとします。
そうしますと、合計46万秒の差となります。これは128時間に相当しますので1人月弱の差となります。もし、3秒の差がありますと、69万秒、すなわち192時間の差となります。年間で見ますとかなり大きな人件費の差となります。
オフィスのホワイトボードを置き換えるような使用頻度の高いグループウエアでは、操作性を極めて大きな要因として重視するべきと考えます。特にWebグループウエアのみがもてはやされる風潮には問題があるでしょう。
2004年6月26日
小林 徳滋
koba@antenna.co.jp