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アクロバットでなくてもPDFができるのはなぜ? -PDF 2.0で変わる知財戦略-

更新日: 2020/12/15

PDFはアドビシステムズ社(米国:Adobe Systems, Inc. 以下、アドビ)が発明したものであることは多くの人が知っています。デジタル文書の配布にPDFを使いたいが、PDFを作るにはアドビのAcrobat(アクロバット)が必要と考えている方も多いでしょう。しかし、PDF関連ソフトは、アンテナハウスを含めて多くのサードパーティからも販売されています。こうして、「PDFを作るのにアドビの許可は必要ないのですか?」という質問を時々いただきます。当初は、この質問への回答は「PDFを作るための仕様や特許は無償で開放されておりますのでアドビの許可は必要ありません」というものでした。しかし、PDFが登場してから既に20年を経過して特許は期限切れとなり、PDFが国際標準化され、さらにPDF 2.0で知財の扱いは根本的に変わっています。

知財専門家から見たアドビの戦略

アドビがPDFの仕様や特許を開放したことについては知財戦略研究の対象にもなっており[注1]、知財専門家はアドビの戦略について次のように認識しているようです[注2]

  1. アドビがPDFに係る知財をサードパーティに無償で公開したので、多くのベンダーがPDF作成ソフトなどの分野に参入した。それによってPDF利用への安心感が広まり、またPDF製品の市場が急速に拡大した。
  2. 一方、アドビは知財の無償利用範囲をPDFの仕様に準拠する製品の開発に制限してきた。
  3. この結果、アドビだけがPDFの新しい機能の拡張ができ、その機能をサポートする新製品については、常に市場での主導権をとることができた。これによって、アドビはPDF市場での高い占有率を確保でき、PDF事業の高い利益率を維持できた。

このような専門家の見方はPDF 1.7まではおおむね妥当であったと考えられます。次にもう少し具体的に示します。

AcrobatでなくてもPDFができる

アドビは、PDFファイルをどのように作るかを、PDF Referenceという仕様書によって当初から公開してきました。たとえば、2004年11月に出版されたPDF Reference 1.5 はアドビのパートナー・ページからだれでも入手できました[注3]

PDF Reference 1.5
PDF Reference 1.5

その第1章の先頭には次のように明記されています。

「この本はPDFのファイル形式についての説明を提供し、第一に、PDFファイルを直接生成するPDF Producerアプリケーションの開発者のためのものである。また、開発者が既存のPDFファイルを読んで、内容を解釈し、変更するPDF Consumerアプリケーションを記述するのに十分な情報を含んでいる。」

このようにPDFはアプリケーションから独立の仕様として、アドビの製品のみでなく、サードパーティの開発者が自由にPDFを書いたり、読んだり、修正することが意図されています。

PDF 1.7まではアドビの主導権で進んできた

こうして、アドビ以外の会社からも沢山のPDF関連ソフトが提供されるようになりましたが、Acrobat 8まではAcrobatのバージョンとPDF Referenceのバージョンが次の表のように1対1対応となっていました。

表1.1 Acrobat のバージョンとPDF Reference の版番号
Acrobat のバージョン番号PDF 仕様書
Acrobat 8PDF Reference, Sixth Edition, Version 1.7
Acrobat 7PDF Reference, Fifth Edition, Version 1.6
Acrobat 6PDF Reference, Fourth Edition, Version 1.5
Acrobat 5PDF Reference, Third Edition, Version 1.4
Acrobat 4PDF Reference, Second Edition, Version 1.3

アドビがAcrobatをバージョンアップするのと同時に、PDF Referenceがアップデートされる状況のため、知財専門家が指摘するように、サードパーティはアドビの手の上で転がされていたともいえます。

ISO 32000-1で状況が変わり始めた

この事情は、PDFの発明から時間が経過し、PDF仕様の策定主体がアドビから国際標準化機構(International Organization for Standardization、以下 ISO)に交代することで、変わり始めました。

アドビは、2007年にPDF仕様をISOの国際標準にすることを選択します。そして、アドビが開発したPDF 1.7(PDF Reference 1.7)をベースにして、ISO 32000-1:2008(PDF 1.7)として国際標準化されました。ISOのPDF 1.7は、PDF Reference 1.7の記述を必要最小限の範囲で改訂しています[注4]。従って、実質的にはアドビが主導して開発したものであるといっても過言ではありませんでした。

PDF 2.0で仕様策定の主導権は交代

その後、10年近い時間がかかりましたが、PDFの新しいバージョンであるPDF 2.0がISO 32000-2:2017として2017年に出版されました。さらに、2020年12月にはPDF 2.0の第2版がISO 32000-2:2020として出版されています。

PDF 2.0は、次の点で、従来のPDFと考え方が変わっています。

第一に、仕様策定作業はアドビではなく、ISOの委員会(technical committee ISO/TC 171)が行っています[注5]。ISO 32000-2:2017は完全にISOのガイドラインに従って開発されており、当初はAcrobatがサポートしていない機能までも盛り込まれていました。

第二に、PDF 2.0とPDF 1.7は非互換であるといっても差し支えないほど変更されています。PDF 1.7までは古いバージョンの機能の中で新しいバージョンで使えなくなった機能はほとんどありません。つまり、PDFの新しいバージョンの機能は古いバージョンの機能をほぼ包含していました。ところが、PDF 2.0では新しい機能を追加するだけではなく、PDF 1.7までの機能をかなり非推奨(deprecated)としています。

このように、PDF 2.0は従来とはかなり異なるポリシーのもとで策定されており、アドビの従来の知財戦略は当てはまらなくなっているようです。PDFは、PDF 2.0になって初めて真の国際標準になったといってもいいかもしれません。


注1
Adobe のPDFに見るソフトウェアビジネスの知財マネージメント
―大量普及と高収益を同時実現させる仕組み構築について―open_in_new
注2
Adobe社のPDF製品ビジネスのしくみ(特許戦略、知財戦略)open_in_new
注3
現在はアーカイブに移動しているようです。
PDF Reference 1.5open_in_new
注4
PDFの国際標準化への歩みopen_in_new
注5
The worldwide standard for electronic documents is evolvingopen_in_new

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