PDFをベースとする各種標準仕様

更新日: 2008/05/04

PDFをベースとする各種標準仕様とは

2008年の現時点で、PDFは紙の代わりに使われる電子ファイルのデファクト・スタンダードの地位を確立していると言って良いでしょう。PDFができてからこれまで、PDFには様々な機能が取り込まれてきたため、PDFの仕様は余りにも大きく、自由度の高いものとなっています。このため、利用目的によっては作成したPDFが不適切になってしまうことがあります。

そこで、主に利用者の立場から、用途を絞った使い方に関する仕様(プロファイル仕様など)が様々に提案されています。以下に、PDFを元にした主要な標準仕様の策定状態について整理します。

用途 仕様名 備考
印刷(プリプレス) PDF/Xシリーズ PDF/Xシリーズには、2008年5月時点で、PDF/X-1~PDF/X-5まであります。歴史が古く、見直しが行われたり、廃止されたものがあります。
長期保存 PDF/Aシリーズ 2005年9月にPDF/A-1が発行された。2008年5月時点では、PDF/A-2の仕様の策定作業中。
工学 PDF/E 2008年5月時点で、PDF 1.6をベースとするISO 24517-1の標準化が終了し、現在、出版準備中です。
健康・保健 PDF/H
アクセシビリティ PDF/UA

なお、PDFの仕様も、従来は、アドビシステムズ社が規定する「PDF Reference」がベースとなっていましたが、2008年から「ISO 32000」として標準化されています。

 ☞ アクロバットでなくてもPDFを作成できるのはなぜ?
 ☞ PDFの国際標準化への歩み

ISOの仕様

PDF関係の国際標準の多くはISOで行われています。近年、ISOの仕様策定の時間が短くなっているようで、状況が速く変わる傾向があります。

印刷用途のPDF/Xシリーズ

PDFは、PostScriptの後継として印刷用のデータ交換にも使われます。印刷の発注元と印刷会社の間でのPDFのより安全な受け渡しのためにPDFの機能をどのように使うかを規定しているのがPDF/Xです。PDF/Xは、PDFをベースとする仕様の中では最も早く開発されたものであり、実際の利用面でも進んでいます。PDF/Xの利用方法に関する資料も数多くあります。

ISO番号 概要 ベース 状態(2008/05/04時点)
ISO 15929:2002 PDF/Xの設計ガイドライン 廃止
ISO 15930-1:2001 PDF/X-1(廃止)とPDF/X-1a:2001 を規定。 PDF 1.3 見直し済み
ISO 15930-3:2002 PDF/X-3:2002を規定 PDF 1.3 見直し済み
ISO 15930-4:2003 PDF/X-1a:2003を規定 PDF 1.4 出版中
ISO 15930-6:2003 PDF/X-3:2003を規定 PDF 1.4 出版中
ISO 15930-7:2008 PDF/X-4, PDF/X-4pを規定 PDF 1.6 出版中
ISO 15930-8:2008 PDF/X-5 PDF 1.6 出版中

PDF/X-1aとPDF/X-3には、PDF1.3をベースとする版とPDF1.4をベースとする版があることに注意してください。仕様についてのより詳しい紹介は次のページをご参照ください。

長期保存用途のPDF/Aシリーズ

コンピュータによる文書作成が登場した当初は、プリンタで紙に印刷することが主たる目的でした。このため電子ファイルの長期保存についてはあまり考慮されて来ませんでした。しかし、近年は紙の代わりにPDFに出力した電子ファイルを交換するようになってきました。

さらに、今後は、紙の代わりに、PDFを保存媒体として使用することが増えると予測できます。PDFは表示環境などによって、内容が見えなくなったり、表示結果が違ってしまう可能性があります。「保存したつもりのPDF文書が後日になって内容を正しく表示できない」、ということが起きないように、PDFを長期的に保存するために、PDF機能の利用方法を規定したのがPDF/Aです。

PDF/AはISO 19005の別名であり、PDFを長期的に保存するための仕様です。実際に活用が始まったは比較的最近です。実際の利用は欧州が一番先行しており、米国はそれに次いでいるようです。仕様についてのより詳しい紹介は次のページをご参照ください。

PDF/Aと電子署名

「PDF/Aで電子署名を使えるのでしょうか?」という質問を頂きくことがあります。どうも、PDF/Aでは電子署名を使えないと考えている人が多いようです。

PDF/A-1の仕様上は、電子署名を使うことは問題ないと考えられます。

それは、次のような理由からです。

  • (1)PDF/A-1は、PDF 1.4をベースにして、PDF 1.4の仕様の中で、必須事項、禁止事項、制限事項、無視事項を決めています。
  • (2)PDF電子署名は、PDF 1.3で導入されており、PDF 1.4の仕様でもPDF電子署名機能は定義されています。そして、PDF/A-1では、PDF電子署名に関わる事項を、禁止も制限もしていません。

以上、(1)、(2)からPDF/A-1ではPDF電子署名を使えるといえるでしょう。但し、若干の注意事項があります。

署名の種類

PDF1.7では、PDF電子署名には、普通署名(Document Signature)、MDP(Modify Detection and Prevention)署名、UR(Usage Right)署名の3種類が定義されています。この中で、MDP署名とUR署名は、PDF1.5で導入されました。

PDF/A-1は、PDF 1.4ベースですので、PDF/A-1で使用できるのは、普通署名のみとなります。

/ 署名フィールド 署名の外観 署名辞書 署名アプリケーション情報
(Prop_Build)
普通署名 MDP署名
PDF 1.3 - -
PDF 1.4 - -
PDF 1.5
PDF 1.6
PDF 1.7
署名の外観

Digital Signature Appearances Adobe Acrobat 6.0 May 2003によればAcrobat5(PDF 1.4)までとAcrobat 6(PDF1.5)以降では互換性がない実装となっています。このことを考えますと、PDF/A-1で電子署名をするには不可視署名(外観なし)にするか、PDF 1.4互換の外観にする必要があると考えられます。

実験結果

実装によっては、PDF/Aに電子署名を施した結果、PDF/Aを満たさなくなることがあります。これを見るために、簡単な実験をしてみました。

上の問題は仕様の問題ではなく、実装の問題と考えられます。PDF/Aに署名などの処理をしたPDFもPDF/Aになるようにするには、すべてのアプリケーションがPDF/Aを意識した処理を行なわけなればなりません。

PDF/E

PDF/EはISO 24517の別名です。エンジニアリング・ワークフローにPDFを適用するための仕様とされており、ISOの委員会が設定されています。

目標

  • 知的権利の安全な配布
  • 信頼できる交換、変更管理
  • 工学的な図面の正確な印刷
  • 注釈やコメント・データを交換したり・管理すること支援する。
  • 3次元、オブジェクト・レベルのデータなど複雑なデータをPDFに組み込む。

スケジュール (2007年3月時点)

  • 2004年3月1日開発意図が公開され、2004年3月10日に最初の委員会(USのAIIM)
  • 2005年6月 ISOで委員会の設置。
  • 最初のドラフトが、2006年5月に批准された。
  • ISOのドラフトのファースト・トラックを利用して投票。2007年3月完了。
  • ISO標準は、2007年央に完了。

ISOのWebページを見ますと、2008年5月時点で、ISOの仕様書は既に正式承認を経て印刷の段階に入っています。発行予定日は6月30日です。

 ☞ ISO 24517-1 Document management -- Engineering document format using PDF -- Part 1: Use of PDF 1.6 (PDF/E-1)

ISO以外の仕様

以下の仕様はまだISOの仕様になっていないと思います。

PDF/H

PDF に関連する仕様のひとつにPDF/H(PDFヘルスケア)があります。副題に「ベスト・プラクティス」が付いています。仕様というよりも実践ガイドというもののようです。

 ☞ 「WK14085 New Guide for Guide for Portable Document Format for Healthcare (PDF/H) Best Practices Guide」

ヘルスケア分野でPDFを使って情報共有するためのPDFに対する制限などを記載したプロファイルです。

目標:
診断メモ、研究レポート、電子フォーム、スキャンした画像、写真、デジタルX線、ECGなどの医療分野での情報を蓄積・交換するための安全な、電子的コンテナを、PDFの特徴や機能を利用して開発する。

PDFの有利性

  • 長期に渡る成功
  • 多様なデータタイプのための安全で汎用のコンテナ機能を提供
  • プラットフォーム独立
  • 相互運用性、双方向のデータ交換が可能
  • 印刷が直ぐにできる

PDF/Aのような仕様との相違点は、使用例を作成すること、実装ガイドを作っていこうとしているようだ。

ASTMのCCR(ケア記録の連続性)、ヘルス・レベル7のCDA(診断文書アーキテクチャ)のような既存のヘルスケア分野の標準や、他の新しく開発されつつある標準との相互運用を可能にする情報を提供する。

  • ASTM CCRの利用例 2007年初頭
  • HL7 CDAの利用例 2007年央
  • HL7/ASTM CCD利用例 作成予定

などとなっています。

AIIMとASTM共同で開発が行われています。

  • CCR
    CCR,(Continuity of Care Record)は、ASTM International, Massachusetts Medical Society (MMS), Health Information Management and Systems Society (HIMSS)とAmerican Academy of Family Physicians (AAFP)が共同で開発しているXMLベースの標準仕様。医師、看護婦、医療補助者などが記入し、交換すること医療事故を減らすのが目的のようです。
  • ASTMインターナショナル
    www.astm.org

PDF/UA アクセシビリティ

PDF/UA仕様の目的は、アクセシブルなPDFの仕様を作成することにあります。仕様作成の作業は、2004年の暮れ頃から始まっているようです。

仕様書のドラフトを見ますと、導入部分にISOの仕様書の雛形を使っていますので、ISOに提案して標準仕様にすることを意図していると見られますが、現時点では、ISOでの策定作業の段階にはなっていないようです。

仕様作成は米国のDuff Johnson氏が中心になって進めており、PDF/UA Wiki(2006年から)と電話会議によって進行しています。

仕様書は、PDF 1.7をベースとして、それに対する制約事項を記述するプロファイルとして作成しているようです。

ドラフトは31節に分かれており、各節の進捗度合いが表に記入されていますが、これを単純平均しますと、47%になります(2007年10月18日時点)。

表に記載された進捗の数字(%)が実態を正しく表しているとしますと、完成度50%というところです。Wikiを見ていますと、Duff Johnson氏は熱心に更新していますが、まだまだ先が長いように思います。

注意

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