PDF、組版と文書変換のアンテナハウス株式会社
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更新日: 2017/3/2
PDFがISO標準になってから2017年2月現在で満8年が経過した。この間PDFの次のバージョンとしてISO 32000-2(PDF 2.0)の開発が進んできた。PDF 2.0はPDFの歴史の中でも大きなバージョンアップである。ドラフト仕様書はISOのストアで販売されている(ISO 32000-2.4:2016(E))。以下、PDF 2.0の主な変更点をまとめる。()内はドラフト仕様書の見出し。現時点で、ISO 32000-2はドラフトなので、本書の本文には組み込まないで付録とし、正式に発刊されたら仕様変更点を本章に反映して改訂版にしたい。そのときは、本文の説明もかなり影響を受けるだろう。
PDF 2.0に準拠するPDFファイルにはバージョン番号として2.0を設定する。PDF 2.0に準拠するPDFリーダーは、バージョン番号 1.0から1.7および2.0のバージョン番号をもつPDFを読むことができなければならないが、PDF 2.0に準拠するPDFのライターが出力したPDFはバージョン番号を2.0に設定しなければならない。PDF 2.0ではたくさんの新機能が追加されるとともに、廃止されている機能もある。PDFの機能は辞書オブジェクトとして規定されており、辞書の項目(エントリー)が廃止されているもの、辞書の項目は残っていてもキーに設定できる値が廃止になっているものがある。
文中の「廃止」とは、PDF のバージョン番号に2.0を指定したときは使ってはいけないという意味であり、PDF 1.7以前のバージョン番号を指定したPDFで使うことは問題ない。廃止された機能を使うときは、PDF 1.7以前のバージョンを指定することになる。また、PDF 2.0対応リーダーは古いバージョンのPDFを表示できるので、過去に配布されたPDFが読めなくなることはない。
PDFの基本であるページにレイアウトされたテキストや画像をデジタルデータとして保存する、という点の変更点は少ない。変更点で一番広範な影響がありそうなのはセキュリティ設定だろう。PDF 2.0ではセキュリティ設定に使う暗号方式が変わるので、例えば、PDF 2.0のオーナーパスワードでセキュリティを設定したPDFはPDF 2.0未対応のリーダーでは表示できない。
文書情報辞書をメタデータ記録の目的として使うことは廃止となる(7.5.5 File trailer)。文書情報辞書のうち、PDF 2.0で残るのは作成日と修正した日のみである。メタデータは文書情報辞書ではなくXMPによるメタデータストリームとして持つことになる(14.3.3 Document information dictionary)。なお、メタデータを記録すること自体は必須ではない(オプション)。
PDF 2.0では新しい暗号化のアルゴリズム番号(1.A)が規定された。1.AはAES-256対称キーアルゴリズムの32バイトファイル暗号化キーを使う。従来のRC4とかAESを使うアルゴリズム番号は廃止される(7.6 Encryption、7.6.3 General encryption algorithm)。
標準セキュリティハンドラーのリビジョン6が規定、リビジョン5以下は廃止である。PDF 2.0の標準セキュリティハンドラーはリビジョン6のみとなる(7.6.4.2 Standard encryption dictionary)。新しい標準セキュリティハンドラーでは辞書に登録する暗号化キーにより大きな値を設定できるようになるとともに新しいキー項目が追加されている。PDF 2.0では暗号化キーなど暗号化のための計算方法が変更になるが、従来からあるユーザーパスワード、オーナーパスワードというPDFのセキュリティ機能が変更されるわけではない。
なお、14–1–2 PDFの利用許可制御では標準セキュリティハンドラーとして2~4が使えると説明しており、リビジョン5が記載されていない。リビジョン5はアドビ拡張による専用セキュリティハンドラーであるが、これはPDF 2.0で廃止される。
PDFでは非標準のセキュリティハンドラーを使うことができる。非標準セキュリティハンドラーで暗号化したPDFは、それを開こうとするときにどのようなセキュリティハンドラーを使ったら良いかを判断できなくなってしまうかもしれない。そこで、これを避けるため暗号化しないPDF(非暗号化ラッパ文書)に暗号化したPDFを埋め込む機能が追加される(7.6.6 Unencrypted wrapper document)。コレクション機能をつかう。
テキスト注釈、文書のアウトライン(しおり)の項目名、アーティクル名など人間が読むテキスト文字列にUnicodeのUTF-8符号化を使える(7.9.2.2 Text string type)。
デバイス独立グラフィック状態の辞書に、色変換の際に黒点の輝度位置の対応を補償するかどうかの設定をオン・オフするパラメータ(黒点補償パラメータ)が追加される(8.4.5 Graphics state parameter dictionaries、8.6.5.9 Use of black point compensation)。
PDFに添付したファイルを対話的なPDF処理ソフトがどのようにユーザーに見せるか、PDFに指定するのがコレクションである。この見え方の指定方法として次の機能が追加される(12.3.5 Collections)。
PDFの注釈タイプに追加と廃止がある(12.5.6.1 General)。
PDFの対話フォーム(アクロフォーム)のうちXFAフォーム(オプション)はPDF 2.0で廃止となり、XFAフォームのデータ形式(XDP)の規定文は本文から付録となる(12.7 Forms、12.7.3 Interactive form dictionary)。フォームにはウィジット注釈の外観を付ける。PDF 1.7までは外観ストリームがオプションであったが、PDF 2.0では外観ストリームが常に必要となる。
電子署名は大幅に変更される(12.8 Digital signatures)。PDFでつけられる署名の種類のうち、UR署名が廃止となり(12.8.2.3 UR)、文書タイムスタンプ(12.8.5 Documenttimestamp (DTS) dictionary)が追加となる。PDF 1.7まではPDFに(署名なしで)タイムスタンプのみを設定できなかったが、文書タイムスタンプ機能の追加により、PDF 2.0の署名辞書の内容にタイムスタンプトークンを埋め込むことができる。
署名の形式に新しくPAdES(12.8.3.4 CAdES signatures as used in PDF)が追加される。PDFの署名辞書にSubfilterの値としてETSI.CAdES.detachedを指定したものをPAdESという。PAdESはETSIのETSI EN 319 142で決めているプロフィールである。また、署名の長期検証機能(12.8.4 Long term validation of signatures)が追加になる。
UR署名の利用法としてはAcrobatで作成したPDFにUR署名を施し、アドビのPDFリーダーでUR署名を認識してPDFに特定の処理ができる(しかし、Acrobat以外で作成したPDFには同じことができない)といった使われ方がなされていたようである(『Adobe Readerで電子署名ができるのかどうか?(まとめ)』)。結局、こうした署名の使い方は混乱を招くだけだったということなのだろう。
地図や衛星写真などを配信するために、地理空間座標システムが導入された(12.10 Geospatial features)。
PDFにはCADで使われるような3次元のオブジェクト(3次元工芸という)を添付できる(13.6 3D Artwork)。PDF 2.0では3次元の注釈機能(13.6.2 3D Annotations)、3次元のデータ(13.6.3 3D streams)、3次元のビュー(13.6.4 3D views)が強化される。また、3次元の距離単位・距離(直線距離、垂直距離、角距離)、3次元の測定やプロジェクション注釈が新しく規定される(13.6.7 Persistence of 3D measurements and markups)。
リッチメディアという項目が新設され(13.7 Rich media)、音声・動画が廃止となって、リッチメディアに統合さる。
PDFの論理構造(14.7 Logical structure)を規定する仕組として、タグに名前空間を使えるようになる(14.7.4 Namespaces for tagged PDF)。また、タグ付きPDF(14.8 Tagged PDF)のタグにつかう構造要素型名・属性が大幅に変更となる。さらに、タグの階層構造設定方法の規則が従来よりも厳しくなる。これらを合わせると、タグ付きPDFの仕様はPDF 2.0で抜本的な変更になる。
タグ付きPDFの仕様は、ISO 32000のタグ付きPDF仕様を単独で利用する場合と、PDF/A、PDF/UAなどのプロファイル仕様として使われる場合がある。PDF 2.0をベースとして、PDF/A、PDF/UAの仕様を改訂する作業が急務となりそうだ。
発音のヒント機能が追加になる(14.9.6 Pronunciation hints)。
文書部品(14.12 Document parts)ではDPartによって、PDFのページへのランダムアクセス機能が強化される(14.12.2 DPart tree structure)。これはPDF/VTで要求される機能である。バリアブル印刷でダイレクトメールなどを印刷するときはPDFのページを処理する順序とPDFを先頭から表示していくときのページ順とは異なる。そこでジョブチケットなどにページの処理順を記述できるようにする機能である。
関連ファイル機能(14.13 Associated files)はPDFのオブジェクトに関連するファイルを関係つける機能である。関連ファイルは外部ファイルまたはPDFに埋め込まれたファイルストリームである。関連ファイルを関係付けられるPDFオブジェクトは、PDFのカタログ辞書、ページ辞書、グラフィックオブジェクト、構造要素、XObject辞書、DParts辞書注釈辞書である。
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