PDF文書への押印の種類や方法、文書のデジタル化で押印の未来はどうなる?

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PDFにはんこを押す図

このページの目的

書類や帳票などの文書を紙(書面)で作成する代わりに、PDF形式のデジタルファイル(PDF文書)で作成して受け渡す機会が増えています。このとき、書面への押印・捺印(押印と捺印は同じ意味です。以下では押印といいます)と同じ感覚でPDF文書にも押印を求められることがあります。

ここではPDF文書への押印の種類や方法を整理し、併せて文書のデジタル化に伴い、押印がこれからどう変わるかについて考えてみます。

PDF文書への押印とは

本記事でのPDF文書への押印とは、PDF文書として作成済みの書類や帳票に判子(はんこ)またはスタンプ(以下、両者を総称して判子といいます)の印影を追記することをいいます。

PDF文書に押印するには、第一に印影をデジタル画像(デジタル印影)として用意し、第二にPDF文書の所定ページ上に、押印する位置や印影の大きさを指定して、デジタル印影を追記します。

なお、関連する補助的な機能として、作成済みデジタル印影を管理する機能や、印影を追記する位置や大きさの設定データを雛形データとして使えるようになっていると便利です。

判子の種類と押印の用途

書面に押印するのに使われる判子はいろいろな種類があります。大きく分類すると、次の3分類になるでしょう。実印は取引契約や財産や権利の移転など需要な書類への押印に使われます。印鑑証明書と併用することで本人確認ができます。

  1. 日付や担当者名の入ったスタンプ
  2. 個人の姓を刻印した認印(ネーム印)や会社の社名入りの角印(以下、認印と総称します)
  3. 所有者と印影が市町村役場(個人)や法務省の法人登記所(会社・団体)に登記されている実印

実印をPDF文書に押印するのはできるだけ避けるのがよいでしょう。デジタル印影は複製が簡単にできてしまいますので、実印のデジタル印影を作成すると流出を防止するための管理が重荷になります。また、実印が本人によって押印されたかどうかも確定し難くなります。

押印済みのPDF文書は原本なのか複製物なのかを判定できませんから、実印の印影が押されているからといって書類が原本であると判断できません。このように考えますと、PDF文書に実印を押す意義はほとんどないと考えられます。

こうして、PDF文書への押印は、(1)スタンプや(2)認印を押印する用途が中心となるでしょう。スタンプや認印の押印であっても、その取り扱いを社内の業務規定または会社間取引の取引規約で決めることで、それなりの役割を担わせることができます。

デジタル印影の作成

デジタル印影の作成と管理は判子の種類によって異なります。スタンプ印やデジタルフォントを使うネーム印なら印影を線画として用意できます。次は、『瞬簡PDF 書けまっせ』で作成した日付印とネーム印の例です。

日付印の例(『瞬簡PDF 書けまっせ』で作成)
認印の押印例(『瞬簡PDF 書けまっせ』で作成)

認印を白紙に押印した印影をスキャナーで取り込んでデジタル画像にすることもできます。このような場合、デジタル印影をビットマップ形式の画像として用意することになります。

デジタル印影は書類の文字の上に追加します。印影をビットマップ画像で作成して、PDF文書に貼り付けると、次の図のように下の文字が見えなくなってしまいます。これは避けるべきです。

下の文字が見えない(良くない例)

印影を通して下の文字が見えるようにする

デジタル印影をPDF文書に押印するときは、印影の中で文字がない部分を通して、下の文書の文字が見える必要があります。このような機能を実現するには透明機能を使う方法とステンシルマスクを使う方法の二通りあります。

(1)透明機能を使う

第一は、デジタル印影を文字以外の地の部分を透明に設定した画像として用意します。このためには、画像形式としてGIF、PNG、JPEG2000など透明が使える形式を選択し、画像作成時に透明を設定できるソフトが必要です。

Webではこうした印影を作成できるサービスがいろいろあります。また、PDF 1.3までは透明が使えませんので、押印対象のPDF文書のバージョンはPDF 1.4以上にしなければなりません。このように第一の方法は透明機能に関わる制約があります。

(2)ステンシルマスクを使う

第二は、PDFのステンシルマスクという機能を使う方法です。ステンシルマスクは、モノクロ(1ビット)のビットマップ画像の黒または白の領域をマスクとして使い、画像の一部を切り抜いた効果をもたらす機能です。不透明部分は自由に着色できます。ステンシルマスクはPDFのバージョンの制約がありません。

例えば、『PDF Tool API』にはモノクロ画像をステンシルマスクとして貼り付ける機能があります。また、『瞬簡PDF 書けまっせ』の押印機能はステンシルマスクを使っています。

次の図は、上の例の画像を『瞬簡PDF 書けまっせ』の印影機能を使って貼り付けた例です。画像自体には透明を設定していませんが、地の部分は下の文書の文字が透けて見えます。

ステンシルマスクによる押印(『瞬簡PDF 書けまっせ』による)

なお、『瞬簡PDF 書けまっせ』は、ステンシルマスクに加えて画像に適当に穴をあけて、紙に押印した雰囲気を醸し出す工夫もしています。

手書きの署名

判子を使った印影以外にも手書きの署名(サイン)をPDF文書に書き込みたいといったニーズもあるかと思います。このような場合、PDFに書き込みができるソフトであれば、ペンタブレットやタッチペンなどを利用して直接PDFにサインすることができます。

『瞬簡PDF 書けまっせ』ではペンツールを利用することで、PDFに直接文字や線画などを書き込むことができます。次の図は『瞬簡PDF 書けまっせ』でPDF文書を開いて、パソコンに繋いだペンタブレットから手書きでサインした例です。

『瞬簡PDF 書けまっせ』のペン機能で直接署名

ペンタブレットやタッチペンなどの入力機器がない場合は、手書きでサインした画像をあらかじめイメージスキャナなどでパソコンに読み込んでおいて、『瞬簡PDF 書けまっせ』で画像の印影として利用することで、手書きのサインのようにPDFに貼り付けることができます。

『瞬簡PDF 書けまっせ』で画像から印影を作成

また『瞬簡PDF 書けまっせ』の「データトレイ」に手書きのサインの画像を登録しておくことで、いつでもドラッグ&ドロップで手書きのサインを貼り付けることができます。

『瞬簡PDF 書けまっせ』でデータトレイに登録した印影で署名

印影をPDFの本文にするか注釈にするか

PDF文書の内容には本文と注釈という二つの大きな区分があります。PDF文書への押印ではデジタル印影を本文として追記するか、注釈として追記するかのどちらかになります。

PDFの本文と注釈の区別は言葉で説明し難いですが、もともとPDFは、商業印刷のための版下(印刷の原盤にあたる)を作る技術から生まれたもので、本文とは印刷に使われる文字や画像などのデータにあたります。

一方、注釈は印刷用の版用の初版から最終版まで過程で校正者などが付記したコメントなどの追加情報として区別できます。注釈は印刷の版として使われません。ステンシルマスクは本文のみの機能です。

(参考)PDFの注釈入門

電子印鑑といわれるもの

PDF標準では、注釈の一種として、スタンプ注釈機能が規定されています。次の図はスタンプ注釈機能を使った例です。

スタンプ注釈の例(左は『瞬簡PDF 編集 9』、右は『Acrobat Pro 2017』で作成)

スタンプ注釈にはコメントを記入できます。
次の例はAdobe Readerでスタンプ注釈にコメントを記入しているところです。

Adobe Readerでスタンプ注釈にコメントを記入
Adobe Readerでスタンプ注釈にコメントを記入

Acrobatの電子印鑑は注釈

一方、スタンプ注釈は簡単に移動したり、削除したりできます。次の例は、Acrobat Pro 2017の電子印鑑をつけたPDFをAdobe Readerで開いて、電子印鑑を移動しているところです。このように注釈を使った押印では簡単に印影の移動・削除ができてしまいます。

なお、スタンプ注釈に「ロック」という属性設定ができ、ロックした状態では移動や削除はできません。しかし、押印した人がロックしても、他者がAdobe Readerでもロックの解除ができますので、スタンプ注釈を移動・削除できることには変わりありません(注1)。

Adobe Readerで開いて、電子印鑑を移動
Adobe Readerで開いて、電子印鑑を移動

PDF文書への押印の効力

本記事で説明しているPDF文書への押印は、法令などに定められている要件を満たさない場合があります。例えば、会社法では取締役会議事録を電磁的記録で作成したときは電子署名をすることを求めています(参考資料 1)。このため、取締役会議事録のPDF文書に押印しても会社法の要求条件を満たしません。

この他、法令により書面で保管が規定されている書類をPDFなどのデジタル文書として用意すると電子署名が必要とされることが多いようです。

電子署名とは

デジタル文書に電子署名を施すことにより、署名対象のデジタル文書が署名後に改竄されたときに検出ができるようになります。

電子署名には電子証明書を使いますが、認証局などで本人確認の上で発行されている電子証明書は署名者の特定ができます。そこで、認証局が発行する電子証明書を使う電子署名はリアルの世界での実印に代えて使うことができます。なお、上述の電子印鑑と電子署名とは全く別のものですので注意してください。

(参考)PDF電子署名入門

PDFへの押印の将来

書面に押印する主な目的は、

  1. 押印した者が本人であることを示すことで、本人が文書の内容を確認していると判断できる
  2. 偽造・改竄を防止(または偽造・改竄がなされたきに検出)できる
  3. 原本性(デジタル文書が複製物ではなく原本自体であること)を確保できること

の三つがあります(注2)。この他に、押印の印影のデザインによって権威性を醸し出すことがあるかもしれません。

PDF文書をはじめとするデジタル文書への押印で、この三つを確保するのは非常に困難です。(1)、(2)は認証局が発行した電子証明書を使う電子署名をすることで確保できます。

一方、書面を複製して原本と100%同じものとするのは極めて困難ですが、デジタル文書は複製元と複製先が常に100%同一です。このためデジタル文書で原本性を確保するには、DRM(デジタルライツマネジメント)のような、自由な複製をできなくするシステムを使わないと実現できません。

このことから、紙幣やコインのような転々流転する貨幣と同じように使えるデジタル通貨は、長い間、実現できませんでした。しかし、ビットコインなどの仮想通貨が、転々流転させられるデジタル通貨を実現したとして注目されています。

ビットコインの基本技術であるブロックチェーンを応用するとデジタル文書への押印の三つの目的を比較的簡単に確保できるかもしれません。そうなるとPDF文書への押印はなくなるのでしょうか? 

PDF形式ではありませんが、例えばMITが紙の卒業証書をブロックチェーンで発行する試みを行ったことがニュースになりました(参考資料 2)。MITの卒業証書のブロックチェーン版を見ますと、興味深いことに印影も見られます。

デジタルの時代になっても公式文書への押印はなくならないのでしょう。将来は、PDF文書の押印をブロックチェーンと組み合わせる事例が出てくるかもしれません。

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